建設業界では後継者不足が深刻化し、黒字経営でも廃業を選ぶ企業が増えています。将来に備えた事業承継は、企業の存続と地域社会を守るうえでも重要な経営課題といえるでしょう。
建設業は他産業と比較しても後継者不在率が高く、全国平均を大きく上回っています。後継者が決まらないことで、事業の将来に不安を抱える経営者が多数存在しています。
帝国データバンクの調査によると、建設業の経営者の平均年齢は59.9歳に達しており、60代以上が過半数を占めています。すでに多くの企業が、近い将来に経営のバトンを渡す時期を迎えており、後継者の不在は経営者にとって切実な課題になっています。
実際に、誰に継がせるのか決まらないまま時間だけが過ぎているという状況に、強い不安を感じている企業も少なくありません。これまで見て見ぬふりをしていた問題が、今まさに現実として突きつけられているという実感を持つ経営者も増えています。
親としては、できれば子どもに事業を引き継いでほしいと考えていても、実際には子どもが別の道を選ぶケースが増えています。帝国データバンクの調査では、同族による承継は2022年に34.0%と過去最低の水準となりました。
進学や都市部での就職、建設業に対する仕事観の変化などが影響し、家族内での承継が難しくなっている企業は年々増えています。子どもが家業を継がない可能性が高まっている今、親族承継に固執せず、他の選択肢を持つことが事業を守る第一歩になります。
地域密着型の中小建設会社では、親族や社内に後継者が見つからないケースが少なくありません。
帝国データバンクの調査では、建設業の後継者不在率は59.3%、住宅建築などでは63.0%と、全業種で最も高い水準です。
都市部への進学や就職で子どもが地元に戻らず、人材確保も難航。M&Aによる承継も、地域ではマッチング機会が限られています。
「今はなんとかなっている」企業ほど、早めに選択肢を広げて備えることが、会社と地域の仕事を守る鍵になります。
黒字経営でも、後継者がいないという理由で廃業を選ぶ建設会社が増えています。帝国データバンクの調査によると、2022年の「後継者難倒産」は487件、その中で建設業が最多でした。
利益が出ていても、任せられる人がいない。取引先や従業員のことを思うと、簡単に決断もできない。そう感じながら月日が経っている経営者も多いはずです。
親族や社内にこだわらず、M&Aなどの選択肢も視野に入れることで、会社と地域の仕事を守る道が開けます。
親族や社内に後継者がいない場合、外部から経営人材を迎える第三者承継も選択肢となります。しかし、特に地方企業では人材確保が容易ではなく、さまざまな課題に直面します。
親族内に後継者候補がいても、現代では家業を継ぐことが当たり前ではなくなっています。背景には、生活環境や価値観の変化が大きく影響しています。
社内に信頼できる人材がいても、従業員承継にはいくつか越えなければならない壁があります。意欲、資金、社内体制といった面で、現実的な課題が立ちはだかります。
従業員としては信頼されていても、経営トップとしての責任を背負う覚悟が持てず、承継を躊躇するケースがあります。決断力やリーダーシップへの自信が持てないことが背景にあります。
自社株を買い取るための資金や借入に対する連帯保証など、金銭的な負担の大きさがハードルになります。承継したくても実現できないというジレンマを抱えることが多くあります。
後継者の選定プロセスが明確でないと、社内での不満や対立を生む原因になります。役員や幹部社員の同意形成が不十分なままでは、承継後の組織運営が不安定になるおそれもあります。
第三者承継を前提とした外部招聘は選択肢として注目されていますが、地方建設会社での実行には課題も多く存在します。
自治体や支援団体が若手起業家を地方に呼び込む取り組みを進めているものの、建設業では職種の特性上、定着に課題があります。
現場作業の比重が高く、長時間労働や肉体労働に対して抵抗を感じる若手も少なくありません。
そのため、実際に働き始めてから理想とのギャップを感じ、離職や承継を断念してしまうケースも見受けられます。
さらに、地方では交通や医療、教育など生活面の不便さも影響し、魅力的な会社でも人が定着しづらい構造があります。
外部人材とのマッチングを図るには、M&A仲介会社や後継者人材バンクとの連携が必要ですが、地方ではそもそもこれらのネットワークが不足しています。
セミナーや紹介機会も限られており、情報が企業にも求職者にも届きにくい状況です。
加えて、企業側が自社の強みや成長性を整理・発信できていないことも多く、マッチング成立の障害になっています。
承継方法には大きく3つの選択肢があります。いずれも早期に検討を始め、段階的に準備を進めることが成功の鍵です。
家族への承継は感情面でも合意形成がしやすく、一定の安定性がありますが、準備と教育が不可欠です。
後継者候補には早い段階から業界知識や経営視点を身につけさせる必要があります。現場経験に加えて、財務・人事・経営戦略など多面的な教育機会を意識的に設けることで、引き継ぎ後の安定経営につながります。
一度にすべてを譲渡するのではなく、時間をかけて少しずつ株式を移すことで、当事者意識を高めるとともに、贈与税などの税負担を分散できます。あわせて名義整理や親族間での合意形成も進めておくと安心です。
贈与税や相続税の軽減措置を活用するには、計画的な準備が不可欠です。特に後継者以外の親族との関係性を悪化させないためには、遺留分対策や遺言の整備も検討し、税理士や弁護士など専門家のサポートを受けながら対応しましょう。
要件を満たせば、贈与税・相続税の納税猶予や免除が受けられます。専門家との相談により適用可否を判断しましょう。
業務を熟知する信頼ある人材による承継は、社内外の理解が得られやすく、安定した移行が可能です。
従業員承継では、長年会社に貢献してきた幹部社員を後継者とするケースが多く見られます。
現場の状況や業務の流れを熟知していることに加え、従業員からの信頼を得ている人材であれば、承継後の社内環境にもなじみやすく、円滑な経営移行が期待できます。
また、社内文化や経営理念を理解したうえで意思決定を行えるため、取引先や地域社会にとっても安心感のある承継が実現しやすくなります。
ただし、現場と経営では求められる視点が異なるため、早期から経営マインドやマネジメント力を育てる環境づくりが重要です。
従業員が経営権を引き継ぐ場合、自社株を取得するための資金調達が大きなハードルとなります。
多くのケースでは、後継者が個人で多額の借入を行うことは難しいため、法人を設立してその法人を通じて株式を買い取る「持株会社スキーム」が活用されます。
MBO(Management Buyout)は、経営陣や幹部従業員が自社株を買い取り、経営権を取得する承継手法です。この過程では、MBOに実績のある金融機関や税理士、認定支援機関の協力が不可欠です。
事業計画の策定、資金の出し手との調整、株価の算定など、多岐にわたる支援が必要となります。
成功率を高めるためには、後継者の育成と並行して、資金スキームの設計も早めに進めておくべきです。
人材の選択肢を広げる第三者承継として有効ですが、社内外の理解と準備がより重要になります。
経営者候補を地域に呼び込む仕組みや国の支援制度を活用し、外部人材と地域企業をつなぐ取り組みが増えています。
段階的な経営関与、役員や社員との関係構築、株式や議決権の設計などを通じて、承継後の混乱や対立が生じにくい体制を整えることが大切です。
後継者がいない場合でも、M&Aにより企業の価値を残す選択が可能です。技術や人材、顧客基盤ごと次世代に引き継ぐことができます。
後継者が身内や社内にいない場合でも、M&Aを活用すれば事業の継続と企業価値の承継が可能です。
M&Aでは、従業員の雇用、取引先との関係、蓄積されたノウハウや技術力など、会社の強みを維持したまま譲受企業へ引き継ぐことができます。
特に建設業では、建設業許可や技術者の在籍、地域の元請ネットワークといった無形資産の価値が高く、これらを求める譲受企業も多く存在します。
従業員の離職を避けたい、顧客対応を継続したいという譲渡企業の想いにも応えられる選択肢といえるでしょう。
また、譲渡企業側の希望条件に合わせて買い手を選べるケースも多く、自社の理念や地域との関係性を尊重してくれる企業を見つけることも可能です。
後継者不在でも、会社の「らしさ」を残しながら未来につなぐ方法としてM&Aは有効な手段です。
後継者不在に悩む建設関連企業A社では、創業者の引退を前に承継先が決まらず、親族内や従業員の中でも後継候補が見つからない状況が続いていました。そんな中、社内の取締役Y氏がMBO(マネジメント・バイアウト)という形でA社の経営権を引き継ぎ、M&Aによる事業承継を実現しました。
Y氏は約20年にわたりA社の経営に携わってきた人物で、業務内容や従業員、取引先との関係性にも深く精通していました。この承継により、創業者が希望していた「従業員の雇用維持」「社名の継続」「顧客との関係維持」がすべて叶えられ、事業は円滑に引き継がれました。
M&A後も従業員や外注先に大きな変化はなく、A社はこれまで通り地域に根ざした経営を継続しています。旧経営者も相談役として一定の役割を持ち続けており、世代交代後も良好な協力体制が維持されています。このように、第三者承継であっても社内人材によるMBOであれば、企業の「らしさ」を保ちながらスムーズなバトンタッチが可能です。
建設業のM&Aでは、建設業許可や設備、進行中案件の扱いに精通した仲介会社を選ぶことが重要です。業界特有の実務に対応できるかどうかが、スムーズな承継に直結します。
仲介手数料は、譲渡金額の5〜10%が一般的な成功報酬の相場です。多くの仲介会社では最低報酬額(300万〜500万円程度)が設定されており、取引規模にかかわらず一定の費用がかかります。
報酬体系やサポート範囲には差があるため、複数社を比較して、自社に合った仲介会社を慎重に選ぶことが大切です。
承継先が未定でも、今からできる準備は数多くあります。会社を守るには、早期の備えが鍵となります。
廃業には、法人の解散登記や税務申告、資産の処分といった法的・会計的手続きが必要です。これに加えて、従業員の退職手続きや再就職支援、未完了の工事契約の整理、仕掛かり工事の損失処理、下請業者への精算など、実務上の対応も多岐にわたります。
また、建設業では地域の元請・協力会社との関係性が強く、1社の廃業が他社の工期や収益に影響するケースも。長年付き合いのあった顧客からの信頼が失われるだけでなく、地域社会における雇用やインフラ維持の観点からも、廃業の判断は慎重さが求められます。
加えて、金融機関や保証協会との関係整理、リース・保険契約の解消などにも費用と手間がかかるため、「廃業は最も手間がかからない選択肢」という認識は誤解といえます。廃業コストは数十万円〜数百万円単位に及ぶこともあり、計画的な準備が不可欠です。
事業承継は数年単位の計画が必要です。後継者が決まっていなくても、今できる準備を一つずつ進めることで、スムーズな引き継ぎにつながります。
株式整理:名義統一や分散防止の検討が重要です。
財務健全化:赤字事業の整理や債務圧縮により、承継の選択肢が広がります。
社内整備:人事制度や情報共有体制の整備により、引き継ぎの効率が上がります。
例えば、事業承継・引継ぎ補助金では、M&Aや設備投資にかかる費用を最大600万円まで補助する制度があります。
また、商工会議所や金融機関の窓口では、税理士や中小企業診断士との無料面談、承継計画の作成支援なども提供されています。
これらの公的制度を活用することで、承継コストの軽減や手続きの精度向上が期待できます。
建設業における後継者不足は、企業存続にとどまらず地域インフラ維持にも関わる社会的課題です。親族・従業員・外部招聘・M&A、それぞれの方法にはメリットと課題があります。早期に「どの選択肢が自社に適しているか」を見極め、段階的に戦略を描くことが重要です。今こそ、未来につなぐ事業承継を真剣に考えるタイミングではないでしょうか。
建設業の事業承継は誰に相談するかが重要な鍵を握ります。
企業の求める承継の形を実現してくれる相談先を目的別に紹介します。


※相談やマッチング
機能利用は無料

※1参照元:M&Aフォース(https://www.ma-force.co.jp/consultant/)
※2参照元:Career Ladder(https://careerladder.jp/blog/ranking/)
※3参照元:日本M&Aセンター(https://recruit.nihon-ma.co.jp/about-us/data-overview/)
※4参照元:日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/groups/message.html)
※日本M&Aセンター費用の参照元https://www.nihon-ma.co.jp/service/fee/convey.html
※5参照元:トランビ(https://www.tranbi.com/)