建築工事業の事業承継事例

目次

建築工事業では経営者の高齢化と後継者不足が進み、事業承継が大きな課題となっています。建設業特有の許認可や資格、人材や地域との関係性が承継のハードルとなりやすく、早期の準備や専門家の支援が求められます。

この記事では、実際の承継事例を通して、円滑な承継に必要なポイントをわかりやすく解説します。

建築工事業とは?業種の特徴と
市場動向

建築工事業は住宅やビル、商業施設などの公共・民間工事を担う業種で、元請け企業・下請け企業・職人が連携して確実な施工を行います。
少子高齢化に伴い新築需要は減少傾向ですが、耐震補強やリフォーム、省エネ建築といった既存建物の改修ニーズは拡大中です。これらの分野に迅速に参入すれば、新たな収益機会を得られます。

参照元:(PDF)国土交通省「多様な住み方を支える 住宅政策」(https://www.mlit.go.jp/common/001146398.pdf
参照元:一般財団法人建設物価調査会「資材価格の動向を知る」(https://www.kensetu-bukka.or.jp/sizai-douko/

建築工事業における事業承継の
実態と傾向

建築工事業界では経営者の高齢化が他業種に比べて早く進んでおり、後継者不足が深刻な課題となっています。

特に建設業許可の維持や経営業務管理責任者・専任技術者などの資格要件を満たす後継者が見つかりにくい状況です。そのため2020年頃からは親族内承継だけでなく、M&Aを活用した第三者承継が急速に増加しました。

異業種間の承継によって新たなシナジー効果を狙うケースや地域内での業界再編目的の承継も注目されており、企業の相性や従業員の雇用維持が成功の重要ポイントとなっています。

参照元:M&A総合研究所公式HP(https://masouken.com/news_releases/642

建築工事業の事業承継事例

ここからは実際の成功事例を紹介します。具体的なケースを把握することで、自社の状況に当てはめて建築工事業の事業承継をイメージしやすくなります。

【成功事例①:I社
(九州・足場工事業)のケース】

概要 九州の建築施工会社I社、社長の高齢化によるM&A
課題 社員の引継ぎと顧客対応、技術継承
対応策 事業の多角化を目指して成約

結果

譲渡を行ったI社では、これまで通りの働き方が保たれ、従業員も安心して業務を続けることができました。

これまで築いてきた信用がそのまま次の体制に受け継がれています。

譲受側にとっては、新たな施工分野を加えることで、これまで踏み込めなかったエリアでの提案や受注が可能になり、会社としての幅が広がる形となりました。

参照元:M&Aフォース公式HP(https://www.ma-force.co.jp/works/construction/i社/

【成功事例②:W社
(中部・建設業)のケース】

概要 地方の中堅建築業者、後継者不在による第三者承継
課題 取引先・協力業者との信頼関係維持
対応策 両社の建設事業強化・プラント工事業の進展を目指し成約

結果

W社がこれまで築いてきた取引先との関係や社内の体制は、譲渡後も大きな乱れはなく、落ち着いた雰囲気が保たれています。

経営移行を段階的に進めたことが奏功し、従業員も日々の業務をこれまで通り進めることができました。

一方のN社にとっては、W社が培ってきたプラント工事のノウハウが新たな武器となり、これまで対応できなかった案件への提案にもつながっています。

両社の特性が自然なかたちで重なり合い、協業の手応えが感じられる結果となりました。

参照元:M&Aフォース公式HP(https://www.ma-force.co.jp/works/construction/w社/

相場や買い手の評価を左右する一般的な要因

建築工事業の譲渡価額は、単なる会計上の数字(簿価)だけで決まるわけではありません。 買い手企業は「その会社を引き継いだ後に、どれだけ安定して利益を出し続けられるか」という継続性を厳しく査定します。 ここでは、相場や評価を左右する3つの主要な要因を解説します。

1. 主要顧客の属性と取引基盤の安定性

顧客基盤の構成は、買収後の収益予見性に直結します。

公共工事実績:

経営事項審査(経審)の点数が直結し、安定した受注が見込めるため、評価は非常に高くなります。 特に地域の「入札参加資格」を維持していることは、他県からの進出を狙う大手企業にとって最大の魅力となります。

民間顧客(ハウスメーカー・地場工務店等):

特定の一社に売上の大半を依存している(依存度50%以上など)場合は、承継後の取引停止リスクを懸念される傾向があります。 逆に、長年の信頼関係に基づき複数の優良顧客から直接受注(元請)を得ている場合や、定期的な修繕・メンテナンス案件などの「ストック型収益」がある場合は、高値成約の強力な後押しとなります。

2. 現場監督・職人の構成(有資格者数と年齢層)

2024年問題(残業上限規制)を経て、2026年現在は「自社で現場を適切に管理できる人材」の価値がかつてないほど高まっています。

有資格者の層の厚さ:

1級・2級建築施工管理技士の人数は、受注できる工事規模を規定するため、企業価値そのものと言えます。 特に、若手から中堅の1級保持者が複数名在籍している場合、買収後の成長期待値(プレミアム)として価格に上乗せされるケースが一般的です。

従業員の平均年齢:

現場監督や職人の平均年齢が低いほど、将来の採用・教育コストが低いとみなされ、プラス評価となります。 一方で、高齢化が進んでいる場合は、承継後の大量退職リスクを考慮され、減額要因となる可能性があるため、早期の若手採用や技術承継が重要です。

3. 譲渡価額の算定根拠:時価純資産と営業権の評価

建築業のM&A実務では、主に「修正純資産法(年買法)」を用いて、会社が保有する実質的な資産価値に、数年分の利益を上乗せして算出します。

$$譲渡価額 = 時価純資産 + 営業権(税引後営業利益 \times 2 \sim 5年)$$

保有車両・資材置き場(不動産)の扱い:

建築業特有の評価ポイントとして、会社名義の車両や重機、資材置き場(ヤード)の評価があります。 これらが帳簿上の価値(簿価)よりも現在の価値(時価)が高い場合、時価純資産が増大し、売却価格が底上げされます。 特に都市部での資材置き場確保が困難な近年、自社保有のヤードは非常に高い不動産価値として評価される傾向にあります。

収益力の評価(EBITDA):

近年の実務では、減価償却費などの影響を除いた「真の稼ぐ力」を測るために、以下のEBITDAを用いた算出法も併用されます。

$$EBITDA \times 3 \sim 8倍 + 現預金 - 有利子負債$$
※EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

事例から学ぶ建築工事業の
承継成功のポイント

建築工事業の事業承継に成功した企業には、共通する取り組みや考え方が見受けられます。承継を検討している経営者にとって、重要な判断材料となる要素を整理して紹介します。

事業承継における成功のパターンや注意すべき点を理解することで、リスクを抑えながら、円滑な引継ぎの実現につながります。

成功事例に共通するポイントは?

建築工事業の事業承継には、押さえるべき共通点があります。共通点を把握すれば、準備段階から承継後の経営安定まで一貫した対応が可能になります。

早期から十分な準備期間を設ける

建築工事業の事業承継では、許認可や資格の継承が必要なため、計画的で早期の準備が欠かせません。

承継時期を明確に定め、引継ぎ計画を入念に策定することで、技術や顧客基盤をスムーズに引き継げます。

社員を巻き込んだ丁寧な
コミュニケーション

承継は経営者だけで進めず、現場社員や取引先の理解を得ることが大切です。

早い段階から社員に計画を共有し、不安を取り除けば、承継後の業務混乱を防ぎ、社員のモチベーションも維持できます。

譲受企業の慎重な選定

譲受企業の選定は、規模や価格だけでなく企業文化や経営理念の一致が重要です。

特に建築工事業は地域密着型の事業が多いため、地元の顧客や協力会社、従業員を尊重できる企業を慎重に見極めましょう。

トラブルを未然に防ぐための
チェックリスト

事業承継では、想定外のトラブルが起こることもあります。特に以下のポイントを事前に確認し、問題の芽を摘み取りましょう。

専門家の支援で確実な事業承継を
実現する

建築工事業の承継プロセスは複雑で、専門的な知識が不可欠です。

譲受候補の選定や条件交渉、契約締結などを円滑に進めたい場合は、M&Aアドバイザーを擁する仲介会社に相談。

許認可手続きや税務対策、法務面のアドバイスが必要な場合は、行政書士や税理士、司法書士といった士業に依頼するのが適切です。

また、承継後の資金計画策定や資金調達支援、財務面の助言を求める際は、金融機関に相談すると安定した経営基盤を築きやすくなります。

自社の状況や課題に応じて、仲介会社、金融機関、士業といった専門家の中から適したパートナーを選びましょう。

建築特有の「未成工事支出金」と「瑕疵担保責任」の引き継ぎ方

建築工事業のM&Aにおいて、買い手(譲受側)が最も神経を尖らせるのが「不透明な負債」のリスクです。建築特有の複雑なリスクも、実務上のルール(定石)に沿って一つずつ紐解けば、納得感のある承継が可能です。ここでは、その具体的なプロセスを詳しく解説します。

1. 仕掛品の正当な評価:未成工事支出金の精査

建築現場は工期が長く、引き渡し時点まで利益が確定しないため、帳簿上の「未成工事支出金(仕掛品)」と実際の現場進捗が乖離しているケースが少なくありません。買い手側は「引き継いだ瞬間に赤字が発覚する」事態を最も恐れます。

【実務での解決策】
多くの成功事例では、デューデリジェンス(資産査定)において、主要な現場ごとに工事進捗度と発生原価の突き合わせを行います。具体的には、譲渡実行日を基準とした「カットオフ(期間損益の区分け)」を明確にし、引き継いだ後の現場で発生する見込み利益と残原価を精査します。この透明な案分プロセスを提示することで、買い手側の不信感を払い、納得感のある譲渡価格での合意を実現しています。

2. アフターメンテナンス義務:過去の施工物件に対する瑕疵担保責任

「過去数年間に引き渡した物件で重大な不具合が起きた際、誰が費用を負担するのか」という問題は、買い手にとって最大の心理的ハードルとなります。

【実務での解決策】
成約に至った事例では、表明保証既存の瑕疵保険を組み合わせた解決策が一般的です。まず、過去の全施工リストとメンテナンス履歴を完全に開示し、リスクの範囲を「見える化」します。その上で、契約書の中に「譲渡から一定期間内に発生した瑕疵については売り手が一定額を補償する」あるいは「買収価格の一部をリスク分として調整金にする」といった条項を設けます。こうした法務的な手当てを行うことで、買い手はリスクをコントロール可能なものとして受け入れることができます。

「負の遺産を引き継がされる」という懸念をどう解消したか

買い手側の懸念を解消したのは、単なる帳簿の数字ではなく、「売り手側からの能動的な情報開示」です。

建築業のM&Aでは、売り手が自ら「現在進行中の現場での懸念点」や「過去のクレーム事例」を包み隠さず共有することが、結果として成約を早めます。「何が起きているか分からない」という不透明さが買い手の足を止めさせるのであり、リスクが特定されていれば、それを解決するための保険の活用や価格調整といった実務的な対処が可能になります。誠実な開示プロセスこそが、建築業特有の「負の遺産」への疑念を、新体制への「信頼」へと変える唯一の道なのです。

【業種別】建築工事業M&Aの譲渡相場と事例の傾向

建築工事業と一括りにしても、その業態によって買い手が求める「価値」や成約に至るポイントは大きく異なります。自社の業種区分における事例の傾向を把握することで、適切な譲渡時期やアピールすべき強みが明確になります。

【総合建築(ゼネコン)の傾向】

事例に見る買い手の狙い 地域シェアの拡大、公共受注権の獲得
評価されやすいポイント 経営事項審査(経審)の点数、地場企業との強固な信頼関係

【足場・仮設工事の傾向】

事例に見る買い手の狙い 熟練した職人の確保、拠点エリアの拡大
評価されやすいポイント 自社所有資材の保有量、施工スタッフの若さと定着率

【内装・仕上げ工事の傾向】

事例に見る買い手の狙い リフォーム・リノベーション市場への参入
評価されやすいポイント 特定顧客との継続的な取引実績、社内のデザイン・設計力

【設備工事(管・電)の傾向】

事例に見る買い手の狙い 安定したメンテナンス・保守需要の獲得
評価されやすいポイント 専任技術者の在籍人数、定期保守契約の締結件数

このように、建築業界のM&Aでは業種ごとに独自の評価軸が存在します。自社の強みがどの区分で最も高く評価されるかを事前に把握しておくことが、納得感のある成約への第一歩となります。

まとめ

建築工事業の事業承継では、現場で培われた技術や従業員の能力をいかにスムーズに引き継ぐかが成功の鍵となります。

事例からもわかる通り、「時間をかけた入念な準備」「社員や関係者との十分な対話」「譲受企業との相性」は重要です。

自社に適した承継方法を選ぶためにも、専門家と早めの連携を検討されてみてはいかがでしょうか。

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業界の承継事情を熟知
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専門家に相談できる
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M&Aフォース
引用元:M&Aフォース(https://www.ma-force.co.jp/)
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引用元:日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/)
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料金
着手金100万~+成果報酬

※相談やマッチング
機能利用は無料

承継先を自分で
探すことができる
しんきんトランビプラス
しんきんトランビプラス
引用元:しんきんトランビプラス(https://shinkin.tranbi.com/)
利用するメリット
         
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  • マッチング後のサポートは懇意にしている信用金庫を通すことができる安心感
利用するデメリット
  • 買い手が適正なのかどうかは自社での見極めもしくは相談先を別途確保する必要がある
料金
売り手は完全無料

※1参照元:M&Aフォース(https://www.ma-force.co.jp/consultant/
※2参照元:Career Ladder(https://careerladder.jp/blog/ranking/
※3参照元:日本M&Aセンター(https://recruit.nihon-ma.co.jp/about-us/data-overview/
※4参照元:日本M&Aセンター(https://www.nihon-ma.co.jp/groups/message.html
※日本M&Aセンター費用の参照元https://www.nihon-ma.co.jp/service/fee/convey.html
※5参照元:トランビ(https://www.tranbi.com/